2024.07.17
5essays のあとがき
例えば、鉛筆デッサンでりんごを描くとする。
りんごの輪郭を探る時、まず薄く弱い線を幾重も引き、大体のかたちのアタリをつける。りんごをじっと観察し、離れてみたり近づいてみたり、検討を繰り返すことで段々とりんごの輪郭が浮かんでくる。たくさん引いた弱い線の中から、最もしっくりくる線を再び鉛筆でなぞって、徐々にりんごのかたちをはっきりさせていく。選ばなかった弱い線は、すぐに消さずに、最後まで可能性として残しておく。デッサンが上手な人ほど、最後まで消しゴムを使わないと聞いたことがある。
モノの輪郭は、はじめから強い一本の線で引くことはできない。
弱い無数の線の中から、少しずつ導いていく。
「5 essays」で試みたことは、鉛筆デッサンに似ているなと思った。かばんのかたちを作るのに、関係があるようなないような対話を繰り返しながら、その人へ向けたかたちを導いていく。従来のharu nomuraのかばんの作り方とは異なる、新しい「essays」という一つの技法を、今回獲得できた。
絵の具が飛んだ裏表逆のかばん、水仕事で荒れた働き者の手、よく手入れされたピカピカの自転車。人の営みへの興味や、そこから見える胸を締め付けられるような愛おしさが、自分のかばん作りと直接繋がるとは思ってもみなかった。
「暮らしが仕事 仕事が暮らし」と陶工の河井寬次郎さんは言っていたけれど、モノが飽和した世の中で、それでもモノを作ろうとするのならば、私はどこまでも暮らしや人に寄り添っていたいと改めて思う。
新しい挑戦に協力してくれた、haru nomuraの周辺の皆さんに感謝したい。
2024年 盛夏
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「5 essays」
神馬啓佑
坂本愛
仲村健太郎
堀井ヒロツグ
VOU
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展示共同企画:仲村健太郎(Studio Kentaro Nakamura)
写真:堀井ヒロツグ
映像:嶋田好孝
モーション:武居泰平
撮影協力:仲村逸平
企画協力:VOU
会場記録:大道優輝 岩橋優花