2024.08.01

haru nomura と人 vol.25 塩津みゆき(デザイナー)

haru nomuraの周辺の人たちにスポットを当てたコラム「haru nomuraと人」。
第25回目は、デザイナーの塩津みゆきさんです。

みなさんは「コンテンポラリー・ジュエリー」という言葉をご存知でしょうか。初めて耳にする方も多いのではないかと思います。
コンテンポラリー・ジュエリーとは、ざっくりといえば芸術表現としてのジュエリーです。例えば、彫刻のように眺めて楽しむものや、廃材を使ったものなど、作品のコンセプトを重視して作られます。宝石のキラキラとした美しさや、装飾性を追った既存のジュエリー観から抜け出そうとする表現の試みです。

塩津さんは、チェコのプラハ工芸美術大学の大学院でコンテンポラリー・ジュエリーを学び、現在は岡山を拠点に活躍しているデザイナーです。彼女が作るデザインは、子どものように遊び心があってチャーミング。塩津さんとは、京都での学生時代に出会いました。時間の感じ方やのんびり度が近い友人で、今も制作活動について雑談し合う仲です。日々真剣に取り組んでいることを、「何気ないこと」として雑談できる仲間の存在はとても大切だなと感じています。

今回は、しっつーに故郷の岡山での暮らしや制作活動についてお聞きしました。

Q.普段のお仕事や岡山での生活について教えてください。

田舎でも都会でもないちょうど良い街で、デザイナーとして活動しています。
グラフィック・ウェブ・パッケージなどをメインに、地元のお店さんや企業さんのいろいろなものを作らせていただいています。
大学で京都へ行く前までの学生時代は、特に何もない面白味のない場所だと思っていたのですが、3年前の帰国後から街の方と沢山の出会いがあり、生まれ育った街を「いい街だな」と思うようになりました。
地方のデザイナーによくある「これ作れる?こんなことできる?」の声にできる限り答えられるように少しずつ成長したいなと思いながら、猫と昼寝していたりもしています。
数年前から母校の大学院との関わりが始まって月に一度京都へ行ったり、仕事の合間に自分の作品制作も細く長く続けています。

Q.学生時代のチェコでの学びについて。

チェコ共和国のプラハ工芸美術大学大学院で「コンテンポラリージュエリー・オブジェクトデザイン」を学んでいました。
コンテンポラリージュエリーは、Wearable Art (身につけられるアート)とも言われたりしますが、そんなフィールドで活動をしているアーティストEva Eisler 氏のスタジオに所属して、4年間勉強しました。
大学時代グラフィックデザインを中心に勉強していたんですが、徐々に立体的で素材感のあるものに惹かれるようになりました。そうなった時に自分の扱える範囲の中でしか素材を選択できていないのではないかと思い学び直しを決めました。大学院でマテリアルリサーチや金属・木工加工などの技術を一から学んだことで、ものを作る時に思い浮かべる素材の幅と知識を広げられたなと感じています。

プラハは街自体が建築の教科書と言われるほど、いろいろな様式の建物が残っていて、街を歩くだけでも刺激的で楽しかったです。
英語もチェコ語も全く話せない状態で留学したので大変なことも沢山あったけれど、何もできない赤ちゃんのような自分を意識があるまま経験する、みたいな不思議で心地よい時間でした。

Q.ジュエリーのどんなところに魅力を感じますか?

自由度は高いけれど「身につけることの必然性」「身体との関係性」があるところが面白いなと感じています。
特にコンテンポラリージュエリーは「それ、いつどこで誰がつけるの?」というものも多いですが、どこまでをジュエリーと捉えられるか?という枠を拡張するような実験的だったり、メッセージを含んだものの考え方が好きなのかも。

ジュエリーと聞くと富の象徴みたいなイメージもありますが、元を辿れば身体の弱い部分を石や素材の不思議な力で守ってもらおう、という人間の弱さとか恐怖から発生していて、それが現在にもお守りのような存在として残っているということは、どれだけ技術が進んでもずっと人間の側にあるものなんだろうな、とも思います。

Q.haru nomuraについて思うこと。

小さい袋が好きで、haru nomuraの巾着を2つ愛用しています。(大きいのと、小さいの)
「メイクポーチにしたら汚れちゃうから、もったいないな」と言ったら「汚れたら染めなおすよ」と即答してくれて、怖がらずにガシガシ使っています。
パンパンに物を入れても口を絞ったところでピタリと止まってくれるのが癖になる使いやすさ。
机の上に置いていると、長めの紐でよく猫が遊んでいます。

大学生の頃に「作りたいものをいつもどうやって考えてるの?」と尋ねたことがありました。
はーちゃんは「いつも3つくらい、ぼんやりとしたいことがあって、その一つをしているうちに、またもう一つ浮かんでくるかなあ」と話していたのをずっと覚えています。それから私も頭の中にしたいこと3つくらい思い浮かべるようにしよう、と決めてチェコに行ったり、自分の制作を続けたりしています。
そんな感じで、しなやかでおだやかで、芯のあるものづくりを続けているharu nomuraの姿勢に、何度も何度も勇気をもらって、背筋を伸ばしているよ。

Q.さいごに。

記事が公開の時には残り数日の会期になっているのですが、岡山県の海辺の古いビルで「Scale スケール」という作品展示をしています。
プラハ生活の中でたくさん見たアーチ型をモチーフにした形を縮小・拡大することで、身体との関わり方、個人性と社会性などの変化を考えた作品たちです。
お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください。

Exhibition「Scale スケール」
7.27 sat.- 8.3 sat.
Open 13:00-19:00

東山ビル3F @hym_bldg
706-0011 岡山県玉野市宇野1-7-3
JR宇野線「宇野駅」徒歩約9分(700m)


【Profile】

塩津みゆき
京都造形芸術大学情報デザイン学科卒業。広告制作会社にてグラフィックWEBデザイナーとして勤務。2016年よりチェコ共和国 プラハ工芸美術大学大学院留学。
金属加工・素材研究を含むオブジェクト・ジュエリーデザインを学ぶ。2020年の卒業後は岡山県を拠点にデザイン業、玩具・ジュエリー・オブジェクトなど分野を横断した制作活動を続ける。

・Instagram
@shiotsu_miyuki

・HP
https://www.shiotsumiyuki.com/

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