2025.02.01

haru nomuraと人vol.30 松尾真由子(kioku手芸館たんす)

haru nomuraの周辺の人たちにスポットを当てたインタビュー形式のコラム「haru nomuraと人」。第30回目のゲストは一般社団法人brk collective代表理事で、「kioku手芸館たんす」主催の松尾真由子さんです。

大阪西成にある「kioku手芸館たんす」は、元タンス店を活用し<あるものを活かす>をコンセプトに活動する創造の場です。地域の女性たちの手仕事を生かしたものづくりを行うほか、展示販売会、ワークショップなどを開催し、人に寄り添うものづくりを実践しています。二階には、美術家・西尾美也さんが、地域の女性たちとの共同制作により立ち上げた西成発のファッションブランドNISHINARI YOSHIOがあり、近年注目を集めています。

haru nomuraとしても繋がりが深く、2019年より、定期的にPOPUPを開催させていただいたり、コラボアイテムを提案させていただいております。たんすに行くといつも創作意欲が掻き立てられる、私にとってのパワースポットです。

101歳のおじいちゃんが、散歩がてら毛糸を巻きに訪れる。白髪のおばちゃんたちが、パリコレのデザイナー顔負けのセンスでミシンを踏む。生きるエネルギーとして、作ることを面白がっている人々がそこにはいます。kioku手芸館「たんす」は、そんな稀有な場所です。

今回は松尾さんに、kioku手芸館たんすについてお話をお伺いしました。

Q.kioku手芸館たんすの活動について教えてください。

kioku手芸館「たんす」は、大阪市西成区にある元タンス店を活用した創造活動拠点です。大阪市の芸術文化振興事業「ブレーカープロジェクト」の活動の一環として2012年に開館しました。アーティストと地域住民が出会い、相互に影響を与え合いながら、共にものづくりに取り組む場として、地域のなかに定着してきました。

現在は、地域の女性たちの手仕事によるオリジナルプロダクトや美術家・西尾美也との共同制作によるファッションブランド「NISHINARI YOSHIO」の工房兼ショップとして、毎週水曜と土曜の週2日オープンしています。また、月一のペースで美術家の上野王香さん主宰によるお直しの会「Mending Club」を実施したり、不定期で他ブランドや作家さんの展示販売会やワークショップも開催しています。

haru nomuraの野村さんとの出会いは、「たんす」で初めて展示販売会を企画しようとしていた2019年。知り合いだったデザイナーの仲村健太郎さんがharu nomuraのwebサイトを手がけられたのを知り、すてきなかばんたちもさることながら、Iro-Nikkiのページに惚れ込みお声がけをさせていただいたのを覚えています。それからご縁がつながり、2023年には「たんす」とharu nomuraのコラボレーションで誕生したHAGI TSUGI DENIM BAGを発表することができました。「たんす」に通う中田さんが、長年いらなくなったデニムをほどき縫い合わせていた生地。中田さんの造形を生かし、できるだけハサミを入れずにharu nomuraが仕立てた1点もの。どれもこれも、中田さんと野村さんの対話が滲み出るような個性豊かな愛おしいバックたちが完成しました。このように、不要になった生地や古着、糸などを活用して、ものづくりをきっかけに、多様な方たちが集まれる場を運営しています。

Q.地域や人に根差した活動を継続していく上で見えてきたこと。

特に活動の1つであるファッションブランド「NISHINARI YOSHIO」では、ワークショップ参加者から今や共同運営者となった地域の女性たちが、服づくりを通じて、本人自身の想像をも超える表現への欲求やものづくりへの探究心を日々高めています。人は年齢に関わらず「創造」への欲求を失なうことなく、どこまでも輝くことができる姿を目の当たりにしています。

最近では、地域の男性の来館も増えてきました。これまで手芸に縁のなかった方たちが、「ものづくり」に没頭できる時間を求めて訪れます。
また、2023 年度より西成区に立ち上がったNPO法人の協力を得て、関西圏に在住するベトナム人の方たちの参画を目的としたプログラムも実施しています。地域の女性たちと異国の若者たちとの交流は、「ものづくり/アート」を介した創造的なコミュニケーションの場となり、互いの創造性をさらに高める機会となっているように感じます。

このように、活動を通して出会う方たちの思いや変化を受けて、人はどのような状態にあっても、最低限の「衣食住」では足らない人間の「生」を充実させる関わりや取り組みが必要不可欠であることを実感しています。「アート=創造性」がもつ力をさらにひろく地域に還元していくことで、一人ひとりの個性を活かし、それを発揮できる機会をこれからもつくっていきたいと考えています。

Q.おばちゃんたちの手仕事や表現の変化。

「NISHINARI YOSHIO」の洋服は、西尾さんからのお題「身近な人をモデルにその人への思いやりをデザインする」や「自分の人生を表す最後に着たい3着」に対して地域の女性たちから出てきたエピソードを元に、やりとりをしながらデザインを考え、プロトタイプを制作してもらいます。そのプロトタイプから製品化を進めていくというプロセスです。

お題を前に、皆さん夜も眠れないと言われるくらいに生みの苦しみを味わいながら、手も時間もかけながら形に現してこられます。そして、できてきたものに対してさらに西尾さんがアドバイスをされるのですが、そのアドバイスがこちらの想定をいつも超えていて、最初は「そんなの無理!つくれない!」と言うのですが、同時にそれを形にしてみたいという欲求も生まれるのか、諦めずにつくってこられる。そんな西尾さんとおばちゃんたちのやりとりが相乗効果となり、ブランドや「たんす」の大きな原動力になっているような気がします。最近はおばちゃんたちの対応力や技術力もすごく向上していて、狂気的なほどまでの商品が生まれつつあるように感じています。

Q.これからの活動について。

最近では、地域医療や福祉分野に関わる支援者の方たちとの交流が増えています。支援者からは、日々利用者の方たちに寄り添うなかで、自らの能力を発揮できる機会が少ないことが共通の課題としてあげられています。「その人らしく生きるとは何か」という問いに対して自問自答しながらも、介護や福祉制度上の限界もあって、なかなかその機会をつくりきれないという切実な声を耳にします。そのような中で、私たちの活動が媒介になることで、支援する/される関係を超えた関わりや新たな関係性が生まれてくる場面がこれまでにもありました。「たんす」の活動の延長線上にそのような機会をより日常的に生み出せる場を共につくっていけないかと考えています。

Q.さいごに

先にも少し触れた2023年から始動したベトナムの方たちとの取り組みについて紹介するトークイベントを開催します。詳細は決まり次第、webサイトやSNSで告知しますので、ご興味のある方はぜひお越しください。
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日程:2025年3月9日(日) 14:00〜16:00(時間調整中)
会場:山王集会所(大阪市西成区山王2丁目10-24)
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【Profile】
松尾真由子(マツオマユコ)
アートマネージャー/一般社団法人brk collective代表理事
大阪市西成区を拠点に地域密着型のアートプロジェクトに携わり、地域に暮らす人々や様々な領域との連携を試みている。2008~2021年度まで大阪市の文化事業「Breaker Project」事務局。現在は、「Breaker Project」の活動の一環で開館した「kioku手芸館 たんす」(2018年〜)、西成区の事業「ちょちょまうヴァナキュラー実行委員会」(2024年〜)の企画・運営に取り組んでいる。

・Instagram @kioku.tansu
・HP  http://tansu.brk-collective.net

作業風景 photo:麥生田兵吾
HAGITSUGI DENIMBAG photo:衣笠名津美

次回のharu nomuraと人は6/1の更新です。

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