2019.12.11

harunomuraのかたちを探す旅 #3 haru nomura bag? haru nomura sack?

育てるしかくの制作後、かばん教室では先生の型紙を借りて「鞄」を制作していた。
ゴールドの調節金具付き、牛革の多機能ポシェット。
背中にウレタン、随所に革をあしらい、鞄の底に鋲を打ち付けたリュックサック。

一つの鞄を仕立てるまでに、学べることが百あった。
できた鞄はとても立派だった。

けれど、私が心地よいと思うかたちではなかった。気の知れた仲間にこっそり見せては、どうかな?と尋ね、ちょっと何かが違うよね??を確認する日々。

この違和感は一体どこからくるのだろう。
「鞄」とはなんだろう。「袋」とは何が違うのだろう。

ひとまず「鞄」と「袋」の違いについて整理してみることから始めた。

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まず、日本における「鞄」と「袋」の歴史を振り返ってみた。

「鞄」が日常生活で使われるようになったのは、明治の文明開化からと言われている。外国人の来訪とともに「トランク」として輸入されたものが「鞄」となった。一説には、明治6年、大阪の商人がフランスから「鞄」を持ち帰り、それを模倣してつくったのが日本で初めとされている。歴史をたどってみて、鞄が身近な存在として一般に浸透してから、まだ100年ちょっとしか経っていないことに驚いた。

それ以前の日本では、袋の文化が主流であった。
日本で最初に記録された袋物は『古事記』の日本武尊が携帯した火打袋だそうだ。

かつての日本には沢山の袋があった。
ざっと並べてみれば、薬袋、頭陀袋、信玄袋、番袋、糧食袋、千代田袋、段袋、宿直袋、風呂敷袋…。
巾着袋のようになんでも入る大きな袋もあれば、茶道で用いる「仕覆」のように物の形にぴったりと沿った袋もあった。

「袋」の進化としての「鞄」ではなく、それぞれに文化があった。
鞄>袋でも鞄<袋でもなく、鞄≒袋だったのだ。

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次に「鞄」と「袋」は一般的にどのように区別されているかを調べた。辞書にあたってみたけれどしっくりくるものがなく、今回はWikipediaを参考にした。

「鞄」
→鞄(かばん)は、荷物の運搬を目的とした取っ手がついた主として革や布でできた袋状の服飾雑貨のこと。服飾雑貨として認知されない袋状のものは取っ手がついていても単に「袋」と呼ばれ、主に収納目的のものはケースと呼ばれることが多い。

「袋」
→袋(ふくろ)とは物を入れる容器の基本的な形状の一つである。柔軟な素材で作られ、内容物のないときは折りたたむなどして小さくまとめることに向く。日用品のうちの容器としても広く使われるが、単に「袋」と呼ぶ場合には、運搬用の道具として専門的に発達した鞄より簡単な形で、多くは持ち運べる物をさす。

語弊を恐れず要約すれば、鞄は服飾雑貨。袋は、鞄より簡単な形で運搬用の道具。
そう言えば、かばんの先生が提案してくれる装飾金具を、ことごとく渋る私がいた。
結局、私は「袋」のような簡素なかたちが心地よいのだ。

~~

君の作ってきたものは、全部、袋。

確かに先生、その通りだ。
事実、私はかばんの形について自らこのように語っていた。

−haru nomuraは、かばんを軸としたブランドです。かばんの形は直線縫いを基本とし、「シンプルな袋」のような仕立て方をしています。無駄な装飾が少ないため、生地の草木の色が引き立ち、軽量で、メンテナンスしやすい形です。一方で、感覚的に布を繋ぎ合わせたアートピースのような一点物のかばんも生産しています(https://haruka-nomura.info)−

ずっと袋であることが、恥ずかしかった。技術不足ゆえの逃げ道のように感じていたところがあったが、鞄に向き合ってみてわかった。私が追い求めていたかたちが、そもそも袋だったのだ。

ひょっとしたら、haru nomura bagではなく、 haru nomura sackなのかもしれない。

少し鞄から、離れよう。袋に戻ろう。
アトリエに工業用ミシンを置き、一人でミシンを踏み始めた。
ようやく、haru nomuraのかたちを探す旅が始まった。


参考資料
・額田巌『ものと人間の文化史 20 包み』法政大学出版局、1977
・田中優子『布のちから 江戸から現代へ』朝日新聞出版、2010
・森南海子『袋物のはなし』未來社、1992
豊岡かばんEXPO、日本の鞄の歴史(2019/12/11)

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