ちょうど一年前、グラフィックデザイナーの仲村健太郎さんとの対話から生まれたStembag。この度、京都の自転車屋さん「humhumhug」でお取り扱いいただけることになりました。全て一点もの、カラーバリエーションも気まぐれです。5/17から店頭とOnline Storeにて数量限定で販売開始です。Humhumhugさんでの販売を前に、このかばんの元となったエッセイをこちらで期間限定で公開します。去年の5essaysの展示の際に、書き留めていたエッセイです。
自転車に乗る人、乗らない人へ。
「家と仕事場の10kmの道のりを、自転車が繋いでいる。運動するということ自体が自分に対してのケアだし、自分を大切にすることが、みんなを大切にすることに繋がる」
Essay3 仲村健太郎さん/デザイナー/ Stem Bag
4月上旬、Studio Kentaro Nakamuraを訪れると、4Fのミニキッチンの冷蔵庫に、健ちゃんの丸っこい小さな字で「オイスターソース」とメモ書きがあった。前日のお昼のメニューが麻婆茄子で、オイスターソースが切れたらしい。別日に打ち合わせで来た時は、確か「キッチンペーパー・お米」と書いてあった。健ちゃん自ら鍋を振って、スタッフと一緒にお昼を食べているとは聞いていたけれど、思っていたより本格的。なんとお米は土鍋で炊いているそうだ。たくさんの書籍や資料が整然と並ぶ緊張感のある仕事場の中に、ふっと暮らしの営みが見える光景があって、なんだか優しい気持ちになった。
最近、グラフィックデザイナーの健ちゃんは自転車に夢中らしい。聞けば、二条駅のそばにあるスタジオから岩倉の自宅までの片道10kmの距離を、パートナーのかよちゃんと共に自転車で通勤しているそうだ。元々は高野の団地にあった住居兼スタジオから、今のスタジオに移転するのを機に、3年前に仕事場と暮らしの場を分けた。新しいスタジオに移ってからスタッフやアルバイトも増え、仕事の幅もどんどん広がっているように見える。そういえば、健ちゃんは最近見るからに前より良い感じなのだ。いつもお洒落だし、表情が豊かで肌艶も良くなって、前よりも自分自身を大切にしている気がする。
「家と仕事場の10kmの道のりを、自転車が繋いでいる。運動するということ自体が自分に対してのケアだし、自分を大切にすることが、みんなを大切にすることに繋がる」と健ちゃんは言う。仕事と暮らしのON・OFFのスイッチが10kmの道のりの中でゆっくりと変わっていく時間が、健ちゃんの心と身体をほぐしてセルフケアになっているみたいだ。「自転車って今、自分の意思で動く唯一の乗り物かもしれないね。電車とかバスとか続けていたらいろんな変化に気づけなかったかもなって」そういうと、今新しい自転車を注文してるんだ!と楽しそうに教えてくれた。
健ちゃんには、新しい自転車に似合いそうなステムバッグを作ってみることにした。ステムバッグとは自転車のハンドルに付けるかばんのことで、自転車を漕いでいる時にサッと取り出したい水筒を入れたり、貴重品を入れるのに使う。雨の日も気にせず使えるよう生地は防水加工をして、暗闇でもかばんを開けやすいように蛍光色のパーツを使って、そうだ健ちゃんがデザインしてくれたタイベックのタグをかばんの表面に縫い付けてみよう、とイメージが膨らんだ。
haru nomuraにとって、Studio Kentaro Nakamuraの存在は大きい。気がつけば10年以上、haru nomuraのグラフィックデザインからウェブデザイン、モデルのスタイリングまで、多方面で力を借りている。健ちゃんのデザインは、まず対話から始まる。その振る舞いは、いわゆる“デザイナー”というよりもカウンセラーや掛かりつけ医に近いなと思う。打ち合わせというより、カウンセリング。最近影響を受けたものや考えたことなど、ポツポツと私が話した事柄を、一本の線にしてくれる。「ばらけているように見えるものを集めて、面白く繋ぎ合わせるのが好きなのかも」と、健ちゃんは穏やかに言う。今回の展示で、”人との対話からかたちを生み出す“という挑戦をしてみたけれど、インタビューの次の日は必ず寝込んだ。健ちゃんが、デザイナーとして日々当たり前にやっていることは、とても難しいことだと身を持って感じた。
思い返せば、いつも健ちゃんに話を聞いてもらってばかりだなと気づく。これからは、健ちゃんの話をもっと聞いてみたい。かよちゃんと自転車に乗ってどこに行ったとか、簡単お料理レシピとか、ものづくりと直接関係がない話でもいい。道草しながら歩く小学生の帰り道みたいに、健ちゃんのとりとめのない話を聞きたいなと思うし、やっぱり私の話も聞いて欲しいなと思う。そんな私たちのペースが、haru nomuraの次の展開に繋がっていく気がしている。
「5essays」 Essay3 仲村健太郎さん/デザイナー/Stem Bag
writing by haruka nomura
photo by horii hirotsugu
haru nomura 2024