色のこと

草木染めの色は、くすんでいて穏やかな色です。陽に焼けた紙、本のあいだに挟んだ押花のような、時間を閉じ込めたどこか懐かしい色合いが魅力です。

草木染めは、同じ植物を染めたとしてもその日の気温や火の入れ方などによって、毎回少し違う色に染まります。均一ではないため、商品としては少々扱いにくいというのが本音です。一方で、複製のきかない偶然の色が、草木染めの魅力です。haru nomuraでは、その日を記す日記のように生まれた色を大切に、お客様にお届けしています。

また、草木染めは化学染料で染めたものに比べ淡く、色の退色が早いという特性があります。長く鮮やかな色を楽しんでいただけるように、染め直しのサービスも行なっています。個人的には、草木染めの退色はだんだんと淡く褪せていくので、退色というより、季節がゆっくりと変わっていくような移ろいを感じます。色褪せもまた愛しい色です。

haru nomruaのアトリエの前には、広い空き地があります。人の手が入っていないので、空き地は見渡す限り、緑の草花で覆われています。不思議なことに、この緑の多くは布に染めることができません。染められたとしても、緑がそのまま映しだされることは少なく、黄色や茶色に染まります。草木染めは、その植物が隠している色を見つけだす方法でもあります。

染料のこと

haru nomuraは、「天然染料」を使って染色しています。

はるか昔から人々は、木の幹、根、葉、茎、花、実、時には昆虫や鉱物から色を抽出し、染色をしてきました。対して、人工的に作り出した「化学染料」が普及したのはおよそ100年前。現在では身の回りの多くが化学染料で染められていますが、長い色の歴史の中でみれば、まだほんの一瞬のことです。

天然染料は化学染料に比べ、手間と時間がかかります。まず植物を煮出し、染液を漉す作業を約2時間します。次に、色を定着させるための下ごしらえとして「媒染」をします。布を、みょうばんや木酢酸鉄などの金属を溶かした液にくぐらせます。そして、ようやく布を染めることができます。布は一晩、鍋の染液の中で寝かせて、じっくり色を染み込ませます。翌日、さらに媒染と染めを繰り返すことで、色に深みを持たせます。1色の布を染め上げるのに、約3日間かかります。最長で2週間、染め続ける色もあります。まるで料理のように、素材と向き合いながら積み重ねていく工程が、私はとても好きです。何より染め上がりの色を見ると、複雑で繊細な草木の色にいつも魅せられてしまいます。

布のこと

天然染料は、基本的に綿、麻、絹、革などの天然素材にしか染まりません。そのため、haru nomuraの製品は天然素材が中心です。haru nomuraのかばん生地の帆布は、デニムの名産地で有名な岡山県児島で織られています。haru nomuraの商品の多くに使用しているのは、一番薄い11号の帆布です。帆布という丈夫な素材でありながら、かばん自体が重くならないように生地選びも工夫しています。麻のかばんも、国内で織られた生地を使っています。天然素材のくたくたと肌に馴染んでいく風合いは、草木染めの色の移ろいと相性がよく、使う度に「布が育っていく」ようです。