2019.12.26

haru nomuraのかたちを探す旅 #5 白のかばん

染色を生業にしているが、染めていない布の色が好きだ。

綿も麻も、織り上げられたばかりの生地は「生成り」。
漂白することによって「白」になる。

昔ながらの漂白は、日光を利用する。木灰に湯を注いで灰汁を取り、その中で布をひたすら洗う。そのあと紫外線に晒す。沖縄では穏やかな海面に布を張り、光が海水の反射によって強くなることを利用する「海晒し」。越後上布の「雪晒し」は、降り積もった雪の上に布を広げて日光に晒す。

染めるという行為が布への足し算だとしたら、漂白という行為は布への引き算だと思う。「白」は私にとって、勇気がいる特別な色だった。色を引き算するだけの、かたちの豊かさが必要だからだ。

〜〜

5回のコラムも今回で最後。
ここで、前回までのおさらいをしておきたい。

20代最後の節目の年、かばんのかたちに向かい合おうと一念発起、かばん教室の門を叩く。そこで先生に「君の作っているものは、全部、袋」と指摘された私は、「鞄」と「袋」の違いに頭を悩ませることになる。工業用ミシンに慣れてきた頃、私が目指すかたちは「袋」なのではないかと気がつく。そこで、身近にあるいろいろな「袋」をリサーチしながら、かたちを作っていくことに。中でも、フレキシブルコンテナバッグという工事現場で活躍する袋に興味を持った。

そんなこんなで今回は、いよいよ新作の「フレコンバッグ」の話をしたい。

〜〜

業務用のホームセンターでフレコンバッグを手に入れた私は、フレコンバッグのどのような構造が、1tもの荷物を運ぶ丈夫さに繋がっているのか、手を動かしながら考えた。具体的には、フレコンのかたちをそのまま模倣してみたり、手芸用のゴムを使って、どこにどんな力が加わっているのかを検証した。

フレコンの秘密を探している中で、クレーンで吊り上げる持ち手の部分が、かばんの底面まで続いていて、1本のベルトが全体を8の字に包みこむように作られていることに気がついた。フレコンは、この構造によって重さが一点に集中せずに、力がまんべんなく分散し、負荷なく荷物を持ち運ぶことができるのではないかと考えた。

そこでharu nomuraのフレコンバッグにも、持った時の重さの体感を軽減するデザインとして「吊りベルトの構造」を取り入れることにした。

試作を何度も繰り返した。
途中で、デザイナーの仲村さんと小林さんに、試作を実際に使ってもらいアドバイスをもらった。彼らはカウンセラーのようなデザイナーで、いつも私のまとまらない話をウンウンとじっと聞いて、的確なアドバイスをしてくれる。彼らのカウンセリングを受けた後(打ち合わせ後のこと)は、すっきりと軽くなって、またつくろうと思える。今回も、ヒントをたくさんもらった。

出来上がったのは、力持ちで、頼り甲斐のありそうなかばん。
頑張らなくてはいけない日ほど、荷物が多くなるけれど、そんな日でもこいつなら信頼できるぞっておもえるかばん。

ベルトの幅は、重い荷物を持った時に肩に食い込まないように、幅広に設計。
また、ベルトをかばんの側面にあえて縫い付けないことで、側面にストールや上着を挟めるスペースを作った、かばんの内側には、ポケットを5つ設置。ボタンを正面・側面の2点で止めることもでき、コンパクトにも使うことができる。縫い糸はあえて、ステッチが目立つようにと黄色で縫った。かばんのカラーバリエーションは5色。黄色の縫い糸に合わせて、ぐっと落ち着いた色調を選んだ。

かばんの色は、茜、藍、灰、苔緑、そして白。
そう。今回、haru nomuraとして初めて無染色の「白」のかばんを発表する。

白のかばんには、色を引き算しても、ものとして自立してほしいという願いを込めた。haru nomuraの白は、洗濯機で何度も洗ったあと、アトリエの物干しで天日に当てた「アトリエ晒し」。

白は維持のために手間がかかるけれど、その分暮らしと向き合える色でもあると思う。白のワイシャツの襟元を、ウタマロ石鹸で洗っている時、何だか晴れ晴れした気持ちになるのは私だけじゃないはず。白って大切にしたいと思える色。しばらく白を楽しんで、時期が来たら染め直しで色を一新するのもいいかもしれない。

〜〜

haru nomuraのかたちはまだ見えないけれど、
かたちを探す旅は、少しずつ進んでいるように思う。
もののその先に、使ってくれるひとがいる限り、
地図はないけれど、とりあえず旅してみたい。

haru nomuraの「フレコンバッグ」いよいよ年明けにお披露目です。

Category
Archive