2023.01.10
haru nomura と人 vol.7神馬啓佑(画家)
haru nomuraの周辺の人たちにスポットを当てたインタビュー形式のコラム「haru nomuraと人」。第7回目のゲストは、画家の神馬啓佑さんです。
haru nomuraで、2度のモデルを引き受けてくれた神馬さん。
1度目の撮影は、夏の琵琶湖。日帰り電車で滋賀へ。自由気ままに、旅するかばんで旅をしました。
ブランドの世界観を作り出す面白さを知ったのは、あの夏の日からかもしれません。
2度目の撮影は、秋の宝ヶ池。ユーザーの存在を意識して、ブランドの細部を考え始めたのはこの時期でした。
スタイリングやヘアメイク、かばんとの生活をイメージさせるビジュアルを目指しました。
思い返せば、ブランドが変化する節目に神馬さんにモデルをお願いしています。神馬さんの存在が、安心して私たちをクリエイティブにさせてくれます。
そんな神馬さんの本業は、画家です。
モデルとしての佇まいはもちろん、作品や文章もしみじみ良い。
それは、昨日今日でつくられるインスタントな良さではなくて。
画家として生きる毎日を積み重ねて生まれる、奥行きのある良さ。
皆さんに、ぜひ知ってほしい人物です。
今回は神馬さんに、ご自身の日々の暮らしや制作活動についてインタビューをしました。
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Q.普段のご自身の制作活動や暮らしについて教えてください。
2021年に約10年ほど、住んでいた共同アトリエを解散して、丹波橋という京都市伏見区の方に住居兼アトリエを構えました。1階は、いろんな作業が出来るようにコンクリートの土間になっていて、2階が住居です。前はだいたい5人くらいでシェアしていたもので賑やかな日々を暮らしていたのですが、今は一人で静かです。
普段は、書店で働きながら、ちょくちょく絵を描いています。書店は、朝から夕方まで。駅が近いので電車で通勤してます。だいたい15分ぐらいの電車の中で、文庫本を読んだりしているのですが、時間が短くて全然読み終われません。電車通勤というのがはじめてなので、時間をうまくつかえるといいのだけどなかなかうまくはいきません。でもちょっとした習慣ができて気分はいいです。
働いている本屋は、芸術書も多くて比較的興味のある本が並んでいるから、いつもチェックしていて飽きることがありません。でも、いつも考え込んでしまって、仕事になっていない。それはいいことではありませんよね。怒られてばっかりです。
でもまぁ、そんな感じで考え込んでると自然と手が動いてしまって、書類などの紙類にちょこっと絵を描いてしまうことがあります。これを後で見るとまぁまぁ悪くない。絵になる前の絵とでもいうのでしょうか。(この絵は嶋田くんが詳しい。)ある意味で絵を描くことが生活に浸透している、もしくはしすぎているのかもしれません。
最近、それがずいぶん認知されてきたのか、いや、前々からずっとバレていたのだろうけど、同僚の子が僕のメモ書きをグラフィックにして、スウェットを作り始めました。ありがたいという気持ちとサボりぐせが公になる感覚が混じって複雑な心境です。
絵を描くことをずっと続けているうちに、「自分は画家だ」と強く言える日がいつか来るのではないかと思っていたのだけれど、最近は、ため息をつくように画家だと言うことが、滲み出ていて自分でもどうかと思います。
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Q.どんな作品を作っていますか?
だいたい絵を描く仕事をしています。最近、haru nomura の1回目の撮影で撮ってくれた守屋くんに誘ってもらって、文章を寄稿しました。文章の仕事は、とても新鮮で面白かったです。
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Q.制作のテーマについて教えてください。
僕は、絵を描くことがもうずいぶんも昔から行われていて、それが今の今まで続いていることにいつも感動を覚えます。そして、何より自分自身が毎日のように考え、悩みつづけていることが、その証明になってしまっていることに気づいたとき、自分が絵を描くこともとても大事なことなんだと気づくことができました。だから、もうしばらく絵を描かせてほしいと願っています。テーマという感じとは違うかもしれませんが、これまでのこと(歴史)といまの自分が重なりあった部分がとても重要な状態だと考えています。
例えば、パンは手でちぎるものだと今もマナーなどで決まっているらしいのですが、それは、イエスが最後の晩餐で、手でちぎってパンを使徒に分け与えたことことが由来になっていて、今現在もキリスト教徒への配慮の意味合いで世界中がそうしています。そういう慣習は、イエスが描かれた絵画が今も見ることができることに関係しているはずですよね。
僕は、絵が今も昔と同じように見ることができて、考えられていることについて、考えたいし、僕の視点でその絵を描きたいと思うんです。
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Q. haru nomuraのイメージ撮影に2度ほどご協力いただいていますが、何か印象に残っていることはありますか?
1度目は、琵琶湖に行って、2度目は宝ヶ池に行きました。1回目は、撮影は守屋くんで前々から知っていたので、リラックスしていたと思います。夏の琵琶湖って賑やかなんだと知りました。車に積んだ大きなスピーカーから爆音で流れる音楽と上半身裸の大学生たち。見慣れた景色といえばそうなのかもしれませんが、正直面食らいました。でも、喧騒から逃れるように湖沿いを歩いたことは、郷愁に浸るような気分になって逆によかったです。あと、湖畔でお昼にカレーかなんかを食べて、気分よかった記憶があります。
2度目の宝ヶ池は、一人じゃなくて星子さんと一緒で、結構大所帯で、服も借りてずいぶん「撮影」という印象でした。なので少し緊張した気がします。撮影が終わって、カメラマンの堀井さんがトイレの鏡で日の光が屈折して虹色になっているのを見つけて、鏡の前でポートレイトを撮影してくれました。フィルムカメラで撮った写真を後でいただきましたが、奇跡の一枚ってTVとかで見たり聞いたことあると思いますが、その写真はそれです。
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Q.さいごに
前に、ブリティッシュカーキの話を野村さんとしたことがあります。イギリス軍のトレンチコートや軍服は、「ミロバラン」というクルミのように硬い殻から実をとってカーキに染めていたそうです。「堅い殻で実(身)を守る」ということで、この実で染めれば死なないと言われていたようです。
僕はこの話が好きで、天然染料で染めたものには、そういう精霊に身を守ってもらっているという逸話が世界中にあるんだそうです。野村さんの鞄にもそういう「霊性」があるように感じてしまうのは僕だけではないはずです。
また素敵な鞄を楽しみにしています。
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【Profile】
神馬啓佑 Jinba Keisuke
1985年愛知県生まれ。2011年京都造形芸術大学大学院芸術研究科芸術表現専攻修了。京都在住。主に絵画表現をベースに活動。絵画を通して「形にすること」が、私たち自身の新たな気づきを誘発し、それとともに「新たな内面」の可能性を模索する糸口になればと考えている。
【Instagram】
@jinbakeisuke